需要の拡大や将来性の観点から、IT業界およびエンジニアの人気は年々高まる一方です。
しかしそんな中でIT業界は「転職率が高い」と言われることが多々あります。
それが原因で、IT業界に警戒心を抱いてしまう方も少なくありません。
今回の記事では、実際のIT業界の離職率にフォーカスを当てながら「離職率が高い」と言われてしまう原因や、今後の動向もご紹介していきます。
IT業界を目指すにあたって重要な情報になりますので、ぜひご一読のうえ参考にしてください。
- IT業界の離職率は9.1%。
- 離職率の原因には「転職」や「独立」がある。
- IT人材の不足と、需要の高騰も原因。
- 今後は条件面の改善で、より離職率が下がることが予想される。
- 離職(転職)するなら、元請け企業や自社開発がおすすめ。
- IT業界で長く活躍するなら、知識のアップデートと強靭なメンタルが大切。
IT業界の離職率は高い?
IT業界の離職率は、むしろ「低い」と考えて差し支えありません。
厚生労働省が2021年に発表した「年雇用動向調査結果」によると、IT業界の離職率は9.1%となっているためです。
以下はその「年雇用動向調査結果」に記載されている、産業別入職率・離職率のグラフです。
IT業界は上記の中の「情報通信業」に該当しますが、離職率は他の業界と比較しても、平均かそれ以下となっています。
サービス業などは20%を超えていることを考えると、圧倒的に低いといっていいでしょう。
またもうひとつ注目すべき点として、「情報通信業」は離職率と入職率に開きがあること。
他の業界の多くは、入職率と離職率が同じかそれ以下です。しかし「情報通信業」は、入職率のほうが抜きん出て高いことがひと目でわかります。
この背景からIT業界の人気もうかがえるため、離職率は高くはありません。
IT業界の離職率が高いと言われている理由
この章では、人気のIT業界でも、よく「離職率が高い」と言われる主な原因をご紹介します。
他業種に比べて転職がしやすいから
IT業界は他の業種と比較しても、とくに「転職しやすい」ことで知られています。
理由は、スキル・手に職を活かす働き方だからです。
IT業界では、専門的な知識とスキルが求められます。
そのスキルは特定の企業に依存するものではなく、他のIT企業はもちろん独立や企業など、あらゆる場面で役に立つものです。
そのため一定期間、企業でスキルを磨いてから、セカンドキャリアに進む人が多くなっています。
この背景こそが、IT業界がよく「離職率が高い」と言われる大きな原因です。
人材不足の影響でエンジニアの需要が高いから
現状、エンジニア界隈は深刻な人材不足に陥っています。
その影響もあってエンジニアの需要は年々高くなっていることが、離職率が高くなる原因です。
エンジニアの需要が上がれば上がるほど、転職するエンジニアは増えるからです。
たとえば今勤めている企業より高い給料で雇ってくれる企業があれば、転職を考えてしまうのも無理はないでしょう。
実務でしっかりスキルと実績を積み、それを面接で証明さえできるようになれば、転職によって年収がアップする可能性は飛躍的に上がります。
これが「IT業界が離職率が高い」と言われる原因のひとつです。
残業や休日出勤が多いから
現実として、IT業界は残業や休日出勤が多い傾向にあります。
その忙しさに耐えきれず、退職してしまう方が後を絶たないことも「IT業界は離職率が高い」と言われてしまう原因のひとつです。
やはり近年のIT需要の高騰もあって、あらゆるIT企業は日々納期と戦っています。
限られたリソースの中で仕事を回す中、予想外のトラブルや仕様変更などがあれば、どうしても定時で帰れることは難しくなるでしょう。
会社によっては下請になるほど激務が増えるから
会社の業務形態によって激務が増えてしまうことも、離職率が高いと言われる原因になります。
ひとえにIT企業といっても、多くのIT企業は「多重下請け構造」の業務形態となっているケースがほとんどです。
多重下請け構造とは「顧客からもらった仕事が、どんどん下請け企業へ流れていく構造」になります。
引用:IT業界の元請けとは?特徴や企業例、下請けについても解説|レバテック
たとえばトヨタがお客さんから新車の購入を承っても、組み立ては2次請け企業が担当します。
しかし2次請け企業が組み立てすべてを担当するのは大変なので、一部分を3次請け企業に依頼します。
これの繰り返しで4次請け、5次請けと、トヨタから離れていくほど同じ労働量でも得られる報酬は少なくなります。
そのため下請けのIT企業は毎日安い報酬で忙しく働く、いわゆる「ブラック企業状態」になりがちな現状です。
これがIT業界の離職率にも影響しています。
外国人エンジニアが増えているから
年々「日本で働く外国人エンジニア」が増えていることも、IT業界の離職率に影響しています。
「人経費を抑えられる」という理由で、積極的に外国人エンジニアを採用する企業が増えているためです。
外国人といってもとくに多いのが、アジアもしくは中東などから来日した方々。
ただ相応のスキルと経験を持ち合わせていれば、たとえ日本語がぎこちなくても開発業務で十分に戦力となります。
こういった費用面の観点も相まって、外国人エンジニアとの雇用継続を選択する企業も少なくありません。
「転職」がIT業界離職率の大きな原因のひとつ!
「離職率が高い」と言われるのは、残業や休日出勤の多さも原因のひとつ。
しかしそれ以上に「転職がしやすい性質」である点が大きな原因です。
たとえば実務でプログラミング言語「JAVA」をひととおり使えるようになれば、「JAVA」を使う企業への転職成功率は飛躍的に上がるでしょう。
IT業界は全体的に人手不足で、経験のあるエンジニアは需要が高いです。
そのためエンジニアは「この企業が合わなければ別のところに転職しよう」といった思考になります。
また、業務で養った専門的なスキルを武器に、
- フリーランスとして独立する
- 自分でITサービスを立ち上げる
- 起業する
など、各々のやりたいことに挑戦するために転職する方も少なくありません。
「IT業界は離職率が高い」と言われる背景には、こういったポジティブな側面があることも念頭に置いておきましょう。
今後のIT業界は離職率が下がる?
IT業界の離職率は今後さらに下がっていくと考えられています。
その理由として挙げられるのは大きく以下の2つです。
- 各IT企業による労働条件の見直し
- リモートワーク環境の発展・充実
現代のエンジニアは、「労働条件が合わなければすぐ転職しよう」と考える傾向になっています。
IT業界は人材不足で、かつエンジニアの需要が高いため他の企業への転職は難しくありません。
これを食い止めるため、労働条件の見直しを図る企業が増えています。
たとえばスキルに応じて適切に年収を上げたり、休日をとりやすくする仕組みを取り入れるなどです。
また技術の進化により、今後リモートワーク環境がどんどん充実していくでしょう。そうなれば出社とリモート、都合に合わせて好きな方を選ぶことも可能になります。
社員が快適に働ける環境が整えば、エンジニアはわざわざ転職する必要はなくなります。
こういった対策の拡大により、離職率のさらなる低下が予想されています。
IT業界の離職で失敗を避ける転職先の選び方
この章では、もし離職(転職)する際に、後悔しない転職先の選定基準をご紹介します。
上流工程を担う元請け企業を選ぶ
上流工程を担う、「元請け企業」を選びましょう。
「元請け企業」であれば、
- 仕事量に対する報酬額が高い傾向にある
- 社内環境や条件面が優遇されている
というメリットを受けやすいためです。
元請け企業は、多重下請け構造における「上の部分」。
お客様から直接仕事をもらい、業務の一部を下請け企業に依頼する側の立場です。
下請けに比べて条件面が優れている可能性が高く、キャリアアップを視野に入れて転職するなら、元請け企業を優先的に探しましょう。
自社開発を行っている企業を選ぶ
IT業界における失敗しない離職(転職)先として、自社開発を行う企業を目指すのもよいでしょう。
自社開発企業はその名のとおり、社内で開発作業・リリースまでを一貫して行う企業のことを指します。
あらゆる業務を一貫して行えるため、スキル・経験が蓄積しやすい点がメリットです。
また多重下請け構造でいう一番上の「元請け」のような位置づけなので、オフィスが華やかで、綺麗に整備されている企業が多い傾向にあります。
ただその分、人気で倍率も高くあらゆることを一貫して行えるスキルや知識が求められます。
モダンな言語を扱う企業を選ぶ
失敗しない転職先としておすすめなのが、モダンな技術や言語で開発を行う企業です。
モダンな環境での開発業務を経験することで、将来性の高いスキルを身につけることが可能になります。
IT業界は、技術の進化やトレンドの変化が非常に激しいです。
「枯れた技術」を使い続け、トレンドに関心のない企業はいずれ廃れてしまうことでしょう。
将来的に市場価値の高いIT人材になりたいなら、なるべくモダンな言語を扱う企業で経験を積むことが大切です。
月の平均残業時間を確認する
IT業界での転職において失敗を避けるためには、月の平均残業時間はしっかり確認しておくのがおすすめです。
IT業界は比較的、残業が多い傾向なのは事実です。そんな中でも、なるべく激務を避けるために確認すべき項目が「平均残業時間」となります。
もし平均残業時間が極端に少なかった場合、面接でその理由や、残業を減らすために取り組んでいることなどについて質問してみるのもいいでしょう。
年間の休日日数を確認する
平均残業時間とおなじく、年間の休日日数もIT転職で失敗を避けるためにチェックしたい項目になります。
こちらは主に、「休日出勤の少なさ」を図る指標になります。
IT業界は急なトラブルや仕様変更によって、休日出勤を強いられるケースが少なくありません。
休日返上で業務に当たるエンジニアが少なくないことも、IT業界の離職率の一因となっています。
もし「プライベートの時間を大切にしたい」という方は、必ず確認しましょう。
IT業界で離職せず長く活躍する人の特徴
この章では、IT業界から離職することなく、長く活躍している人の共通点をご紹介します。
自ら率先して知識のアップデートができる
知識のアップデートを自ら率先して行える人は、IT業界を離職することなく長く続けられるでしょう。
専門職のエンジニアではなくとも、あらゆる業務ツールや作業環境はアップデートを繰り返します。
ITにかかわる以上、知識のアップデートはもはや必要不可欠です。
そのため変化を嫌ったり、新たな知識を習得することに苦痛を感じる人は、IT業界から離職する可能性が高くなります。
周りの人と円滑にコミュニケーションがとれる
IT業界で長く活躍する人の特徴として、「コミュニケーション能力が高く、周りと円滑に仕事をする人」が挙げられます。
IT業界ではクライアントはもちろん、社員との打ち合わせ・進捗確認など、何かとあらゆる場面でコミュニケーションが必要です。
相手の機嫌を損ねることなく、認識の齟齬なくコミュニケーションができれば、IT業界では長く活躍できるでしょう。
きつい言い方にもめげない強靭なメンタルがある
IT業界で離職せず、長く活躍する人の共通点に、「強靭なメンタルをもっている」ことも挙げられます。
IT業界はもちろん、全員が「コミュニケーションが上手で円滑な仕事ができる方」ばかりではありません。日々限られたリソースの中で、いくつものタスクと納期に追われています。
そのため、ときにはきつい言い方で叱られることもあるでしょう。さらには、長時間に及ぶ理不尽なクレームを食らうこともゼロではありません。
IT業界で離職せず長く活躍するためには、そういったケースにもめげず自分の中でうまく消化する「強いメンタル」をもつ必要があります。
まとめ:IT業界の離職率はそれほど高くない!
IT業界はよく「離職率が高い」と言われますが、具体的な数字を見るとそれほど高くありません。
構造的な問題で激務だったり、身近で離職していく人を目の当たりにした人が発言しているものと考えていいでしょう。
しかし実際、現在においては入職率のほうが多く、また今後はの条件面の改善が期待されていることから、離職率はさらに下がるという予想すらあるほどです。
また離職率の背景には、キャリアアップのための「転職」や「独立」というポジティブな要因もあります。
ネガティブな意見に惑わされることなく、自信をもってエンジニアを目指すのがいいでしょう。