いまやAIは、「AI戦国時代」と呼ばれるほど私たちの生活に浸透しつつあり、さらに大きな事業展開が期待される分野となっています。
そのAIを語るうえで無視できないキーワードとなっているのが、「機械学習」と「ディープラーニング」です。
なんとなく単語は聞き覚えがあっても、具体的にどのような意味をもち、どんなふうに活用されているのか、わからない方は多いと思います。
今回はその「機械学習」と「ディープラーニング」の概要や仕組み、メリット・デメリットや特徴をご紹介します。
機械学習とディープラーニングの主な違い
まずはじめに、タイトルにもある「機械学習とディープラーニングの違い」について結論を説明します。
両者の違いをひとことで表すなら、
- 機械学習=AIのアルゴリズムの総称
- ディープラーニング=機械学習の技術のひとつ
ということになります。
機械学習とは、「機械がデータ分析を行い、その分析結果から学んだ情報を使って、正解に足る情報を返すアルゴリズム」の総称です。
一方のディープラーニングとは、機械学習の技術のひとつであり、平たく言うと「より進化を遂げ、時代を一変させたアルゴリズム技術」です。
次章からは、それぞれの特徴をより詳しく見ていきます。
機械学習の概要・仕組み
機械学習とは、「機械がデータ分析を行い、その分析結果から学んだ情報を使って、正解に足る情報を返すアルゴリズム」の総称のことをいいます。
つまりは、「過去の事例から学習してどんどん精度を上げていく、AIならではの技術」ということです。
具体例として挙げられるのは、YouTubeやその他動画配信サービスにある、ユーザーが好きそうな動画を自動で表示する機能。
これまで閲覧した動画、もしくは「いいね」や「ウォッチリスト」に追加したジャンルを学習し、類似したコンテンツを表示する技術は、まさしく機械学習の代表例といえるでしょう。
この技術は動画のみならず、Amazonや楽天などのECサイト、およびニュースサイトなどでも広く採用されています。
機械学習のメリット・デメリット
機械学習にはいい面もあれば、よくない面もあるものです。
「機械学習のメリットとデメリット」という形で、それぞれご紹介します。
メリット
もっとも大きなメリットは、小さなコストで取り入れられる手軽さです。
ある程度パターン化されていて、それほど複雑でないアルゴリズムで機械学習を取り入れたい場合、こちらを選ぶのが最適解となります。
一方のディープラーニングでは大量の複雑なデータを必要とするので、多くの時間を要することになります。
その分ディープラーニングに比べて精度に欠けることは否めませんが、用途に応じて使い分けることが大切です。
デメリット
機械学習のデメリットは、「ブラックボックス化」です。
ブラックボックス化とは、
- なぜその答えが導かれたのか
- どういう分析のもとで出た答えなのか
がわからないまま、活用を続けていくこと。
直訳で「中身の見えない黒い箱」に例えられていることが、名称の由来です。
動画サービスやECサイトならとくに問題ありませんが、理屈が説明できないと不都合なサービスはゼロではありません。
機械学習が適しているプロジェクトの特徴
機械学習は、次のようなプロジェクトに適しています。
準備できるデータの種類が少ない
過去のデータがそれほど多く用意できないプロジェクトでしたら、機械学習を採用することがおすすめといえます。
ディープラーニングでは大量のデータが必要になる一方、それに比べて通常の機械学習ではそれほど多くの過去データを必要としないためです。
学習に必要な時間を短縮したい
ディープラーニングは機械学習に比べると、膨大な学習時間とコストが必要になります。
つまり、少しでも時間を短縮しつつ機械学習アルゴリズムを実装したいと考えている場合は、機械学習を選択するほうが高い利便性を感じられるでしょう。
コスト削減を優先したい
コスト削減を優先するプロジェクトである場合も、機械学習を選んだほうが、より確かな恩恵を受けることができるでしょう。
ディープラーニングに比べると、時間と金額のどちらを考慮しても、機械学習のほうが手軽に導入できるためです。
予算をかければそれに見合うリターンを得られる可能性は高くなりますが、その予算を出すに値する価値のあるプロジェクトなのかどうかは、企業内でよく検討する必要があります。
それほど複雑な処理を必要としない
それほど複雑で難解な処理は必要なく、ある程度決まりきったパターンを分析するようなプロジェクトだったときは、機械学習を選ぶようにしてください。
星の数ほどのパターンがあって、複雑な条件が用いられるようなプロジェクトだったときはディープラーニングが大活躍します。
しかしそうでない場合はなるべく機械学習を利用したほうが、オーバースペックにならずに済みます。
プロジェクトのゴール、そして規模感などに応じて適切なものを選ぶことが、上手にAIを活用するコツです。
ディープラーニングの概要・仕組み
ディープラーニングは機械学習の技術のひとつであり、「莫大なデータから類似点を自動であぶり出すことで、あたかも人間のような自由な判断を行えるアルゴリズム」のことを指します。
機械学習の精度をさらに上げたものと言い換えることもできます。
ディープラーニングのすごいところは、通常、人間が指定するはずの「特徴量」をプログラムが自動で検索し、自ら学習してくれる点です。
身近なディープラーニング活用事例を挙げると、
- 自動車の自動運転
- 医療業や製造業の画像処理
- スマートスピーカー
といったものがあります。
たとえば自動運転では、
- どの条件を満たせば止まって
- どの条件を満たせば走り続け
- どの条件を満たせば曲がる
のような過去の莫大なデータ量をフル活用し、複雑なロジックを再現しています。
またスマートスピーカーは、命令したことをそのまま返すだけでなく、「ユーザーの声や趣味や嗜好が、これからどう変化していくか」まで予測するものも。
そのぶん必要となるデータの量も多く、難しくてやっかいなロジックを組む必要があるので、学習にも時間がかかります。
ディープラーニングのメリット・デメリット
ここでは、ディープラーニングのメリットとデメリット、それぞれ詳しく解説します。
メリット
かけたコストに見合った「成果」を実感できることが、ディープラーニングを導入するメリットになります。
通常の機械学習に比べれば、その圧巻の性能およびパフォーマンスの差は歴然で、日常の業務やタスクをハイパワーで効率的にしてくれることでしょう。
またたくさんのデータを使うことから、通常の機械学習では再現しきれない複雑なロジックを組み込むことが可能です。
たとえば自動運転、医療といった「重要な責任」が伴う分野なら、ディープラーニング一度となります。
デメリット
ディープラーニングのデメリットになるのは、学習にかかる時間の長さです。
どのようなタスクをどう効率化するかにもよりますが、時と場合によっては、その長い学習時間をかけるだけのコストに見合わない結果となる可能性もあります。
もしディープラーニングを採用するなら、再現するまでの時間もしっかり念頭に置きながら検討しなければなりません。
デメリットはもうひとつあり、あらかじめ莫大な量のデータを用意できていないと、再現することが難しい点です。
より高い精度を追い求めるのであれば、それに見合うだけの量のデータを用意しなければなりません。
自社でそれらを集める時間を捻出することが難しい場合、外注することもひとつの選択肢でしょう。
ディープラーニングが適しているプロジェクトの特徴
ディープラーニングは、次のようなケースで本来の能力を発揮します。
大量のデータの準備がすぐにできる
過去のデータが常に決まった場所にストックしてあり、必要に応じてすぐに取り出せる状態になっているなら、ディープラーニングを検討するのがいいかもしれません。
ディープラーニングを活用したいものの、過去のデータ収集があまりにも困難を極めることから、断念してしまう企業は意外と多いものです。
高負荷なデータ処理に耐えられる機器が揃っている
ディープラーニングを導入するためには、高負荷な処理を避けて通ることはできません。
読み込ませるデータ量が莫大であるほど、機器に大きな負荷がかかります。
その大きな負荷に耐えられる機器がひととおり揃っているプロジェクトであれば、ディープラーニングの検討の余地があるといえるでしょう。
逆に高負荷に耐えられないスペックの機器しかない場合は、いくらデータが揃っていても、ディープラーニングは導入しないほうが賢明です。
複雑で込み入った処理が必要
単純である程度パターンが決まっている処理を実行するだけなら、通常の機械学習で十分でしょう。
しかし、複雑かつ込み入った難しい処理を要するプロジェクトである場合は、ディープラーニングの出番です。
たとえばスマートスピーカーのように、ユーザーの趣味嗜好もバラバラで、命令の内容も時と場合によって変わるようなものでは、通常の機械学習で補うことは難しくなります。
アルゴリズムを詳細に説明できる人がいる
ディープラーニングが出した答えに対し、
- どういう処理でこの回答に至ったのか
- システムの裏側では、どういうロジックが動いているのか
といったことが説明できない状態のまま、利用を続けることを「ブラックボックス化」というのですが、これが許されないケースがあります。
たとえば自動運転や医療業界といった、大きな責任が問われるプロジェクトがそうです。
こういった局面でディープラーニングを活用するのであれば、そのアルゴリズムを理解し、論理的に説明できる人を配置する必要があります。
大きな責任のあるプロジェクトで、もしそのような人がいない、もしくは配置できる見込みがないなら、AIの導入自体難しいかもしれません。
ディープラーニングが適している用途
ディープラーニングは主に、次のような用途で最適であり、実際に活用されています。
画像の認識
画像認識は、ディープラーニングがその力を存分に発揮してくれる使い道となります。
たとえば製造業における不具合部品の検出。
正解となる画像を複数枚用意し、その正解に該当しないものは不具合とみなして除外するアルゴリズムは、今や日本の製造業の生産性担保には欠かせません。
またコロナウイルスの第5類移行後、都会の街中でマスクをしていない人の割合を算出するアルゴリズムにも、画像認識が用いられています。
このように、これからも画像認識はさまざまな分野で有効活用されていくでしょう。
音声データの判別
音声データで判別するアルゴリズムも、現在進行系で活用が進められている分野となります。
たとえば製造や建築の現場において、ディープラーニングが異常音を察知することで、いち早い故障防止や安全確保などにつなげるシステムなどです。
あらゆるデータの予測
これから先の未来の予測も、ディープラーニングが担う役割となっています。
あらゆるデータの予測とは、たとえば
- お店の今後の売上の見通し算出
- 生産管理における品切れ時期の予測
- 過去のデータに基づく天気予報
といったものです。
とくに生産管理の品切れ時期予測については、特定の時期に品切れとならないよう、自動注文を行うシステムなども活用されています。
機械学習やディープラーニングを活用するとき注意すること
機械学習やディープラーニングを活用するなら、次の点に注意するようにしましょう。
必要最低限のデータがないと精度は下がる
機械学習、およびディープラーニングを使用するなら、必要最低限のデータがないと、精度は下がります。
精度が下がるどころか、場合によっては再現することすら難しくなる場合もあるでしょう。
AIで作業効率化を図り、かつそれなりの精度を担保したいのであれば、まずは過去のデータを収集することから始めてください。
処理のブラックボックス化が問題となるケースもある
AIが導き出した答えのロジックや理屈が説明できずに、活用を続けることをブラックボックス化と言います。
チャットボットや個人の趣味で活用する程度なら問題ありませんが、場合によってはブラックボックス化は問題となってしまうことも。
具体例を挙げるとしたら、製造業務で売り物に使ったり、自動運転や医療といった命に関わる分野などです。
相応の費用対効果を考慮しつつ活用する
当たり前ですが、AI導入に対する費用対効果をしっかり考慮のうえ、決断する必要があります。
たとえば小規模で、それほど複雑なロジックを要さないチャットボットのようなサービスでディープラーニングを使うとなると、宝の持ち腐れです。
導入によってどれくらいの費用がかかるのかはもちろん、逆に導入でどのくらいの利益を生み出せるようになるのかまで見越しておくことが大切です。
まとめ:状況に応じて機械学習とディープラーニングを使い分けよう
通常の機械学習は、最低限の学習・回答といった、いわゆるAIならではの機能を実装するもの。
ディープラーニングは機械学習のひとつでありつつ、通常のものよりもはるかに優れた機能性を担保しているものです。
性能はディープラーニングに軍配が上がるものの、どちらにも良し悪しがあるので、実現したいサービスや状況に応じて上手に使い分けるようにしてください。