現代のIT技能として、スクレイピングは欠かせない要素です。
あらゆる場面での活用例があり、競合他社の情報収集や価格比較、ニュースや天気情報の取得など、挙げればキリがありません。
この記事では、そんなスクレイピングの合法かつ倫理的な使い方についてご紹介します。
また基本的な手法やツール、注意すべき法的な制約についても解説。
ぜひ有益な情報収集手法である「スクレイピング」のポイントを押さえ、理解を深めて有効活用していきましょう。
そもそもスクレイピングとはなに?
スクレイピングとは、ウェブサイトからテキストや画像、動画といった情報を自動的に収集する技術のことです。
上記のような情報を効率的に収集・分析し、データベースに保存したり、マーケティングに活用したりする用途で、多くの企業や個人から利用されています。
スクレイピングは、専用のツールを用いることが一般的。
ツールは無料のものや有料のものがあり種類もさまざまですが、主に以下のような機能を備えています。
- 指定したURLから情報を取得
- 取得した情報をデータベースに保存
- 取得した情報を分析
スクレイピングとクローリングの関係性
クローリングとは、専用のプログラムがサイトを巡回し新しいページを見つけ出す技術のことです。
クローリングを行うには、URLを取得のうえアクセスしなければならず、主に検索エンジンがサイトをインデックスするために使われます。
スクレイピングは、サイトのHTMLコードを解析し、必要な情報を抽出する技術です。
主にサイトから情報を効率的に収集するために使用されます。
両者の違いをわかりやすく言語化すると、
- クローリングは、サイトを巡回して情報を見つけ出す
- スクレイピングは、その情報の処理・分析・保存を行う
といった形となります。
スクレイピングとAPIはどう違う?
APIとは、ウェブサイトの運用元が提供している「プログラム間のデータや機能のやり取り」を、外部から利用するための仕組みです。
APIを使用すると、そのサイトから自由にデータを取得したり、操作したりすることができます。
サイトの運用元が公式で提供している機能を使うわけなので、信頼性や安全性が高いです。
かたやスクレイピングは、サイトのHTMLコードを解析して情報を抽出する仕組み。
APIより自由度が高いため、さまざまな情報を取得できますが、運営者の意図に反する形で情報を取得してしまう可能性があるため、リスクがつきものです。
スクレイピングが有効活用されるケース
スクレイピングは一般的に、次のようなケースで役立てられています。
マーケティング活動の効率化
スクレイピングは、マーケティングの効率化のために有効です。
たくさんのサイトのあらゆる情報が手に入るので、分析・解析が容易になり、結果としてマーケティングがより精密なものとなります。
そしてECサイトなどの商品情報に限らず、SNSやレビューサイトからのデータ抽出により、顧客の意見や傾向を把握することで、マーケティング戦略を改善することも可能です。
SEO対策やキーワード分析においても、スクレイピングによる大量のデータ収集が大きな効果を発揮することは間違いありません。
比較サービスなどの新規開発
比較サービスなどの新規開発において有効に活用できます。
たとえば商品価格やレビュー情報などを複数のウェブサイトからスクレイピングすれば、ユーザーに最適な選択肢を提供する比較サービスを構築することが可能です。
リアルタイムな情報を収集し、より多くのウェブサイトのデータを集約することで、ユーザーは迅速かつ効果的に商品やサービスを比較できます。
また競合他社のデータをスクレイピングして市場動向やトレンドを把握することで、自社のサービスや製品の戦略立案にも役立ちます。
ECサイトの価格の変動の調査
ECサイトにおける価格変動の調査でも、有効活用が期待できます。
商品の価格は、競争力や需要の変動によって頻繁に変わるもの。
そこで競合他社の価格情報をスクレイピングすることで、市場の動向や競合の最新の価格戦略を把握することができます。
また定期的なスクレイピングによって価格の変動パターンを分析していれば、自社の価格設定やセール戦略を最適化することも可能です。
さらに特定の商品の価格変動をリアルタイムで監視することで、割引セールや在庫の変動に素早く対応することもできます。
ウェブページにおける信頼性の向上
スクレイピングは信頼性の向上においても、優位に働くでしょう。
ウェブ上の情報は多種多様なので、正確性や信頼性が異なる場合があります。
そこでスクレイピングによって複数の情報源からデータを収集し、その情報をクロスチェックすることで、より信頼性の高い情報を提供できます。
またフェイクニュースや誤った情報の拡散を防ぐためにも、スクレイピングによる情報の検証が重要。
さらに信頼性の高い情報を提供することで、ユーザーの満足度や忠誠心の向上にもつながるでしょう。
各種サイトのデータをエクスポート
いろんなサイトのデータをエクスポートするときも、スクレイピングが有効活用されます。
ウェブサイトやオンラインプラットフォームには、ユーザーのデータやコンテンツが蓄積されていますが、サイト内での閲覧や利用に限られるのが現状です。
しかしスクレイピングを用いることで、そのデータを外部の環境で活用できるようになります。
たとえばSNSの投稿データをスクレイピングして分析すれば、トレンドやユーザーの行動パターンを把握するといったことが可能です。
スクレイピングで用いられる専門用語
ここでは、スクレイピングとともによく使われる単語について解説します。
スクレーパー
スクレーパーは、ウェブサイトからデータを自動的に収集するためのプログラムやツールを指します。
特定のページのHTML構造を解析するため、必要な情報を抽出するためのルールや手法を組み込んでいるのが特徴です。
スクレーパーにもいくつかの種類がありますが、ブラウザを操作して情報を収集するスクレーパーが一般的。
サイトのコンテンツをそのまま表示できるため、使いやすい点がメリットです。
クローラー
こちらは自動的にウェブサイトを巡回し、新しい情報を収集するプログラムを指します。
特定のスタートページから始めて、リンクをたどりながら複数のウェブページを訪れ、データを収集していくのが特徴です。
このプロセスを一般的に「クローリング」といいます。
クローラーはウェブサイトの階層構造を理解し、リンクの解析や再帰的なページ遷移を行うことで、大量のデータの収集を行います。
クローラーはスクレイピングの一部として使用され、とくに複数のページやサイトからデータを収集する場合に欠かせません。
API
APIはWebサービスが提供している機能を、外部から利用するための仕組みです。
Webサービスからデータを取得したり、操作したりするときに活用される技術と考えていいでしょう。
スクレイピングはサイトのHTMLコードを解析するもの。
もしサイト側の都合でコードが改変されたら情報の抽出はできなくなるので、スクレイピングの仕様も変更しなければなりません。
しかしAPIは、HTMLコードを解析することなく、サイトからデータを取得できます。
すなわちコードの改変に追従する必要がないので、利便性の高いツールとして親しまれています。
スクレイピングとの相性がいいプログラミング言語
スクレイピングでよく使われるプログラミング言語は、次のとおりです。
Python
シンプルで読みやすい文法で、豊富なライブラリやフレームワークが揃っていることから、優れた言語として広く利用されています。
柔軟性と拡張性が高く、スクレイピングに必要なカスタム機能やデータ処理も容易に実現可能です。
さらにPythonには、スクレイピングとの相性がいいライブラリも充実。
たとえば「Beautiful Soup」や「Requests」などは、HTML解析やHTTPリクエストの処理を容易に行うための機能を提供しています。
これからスクレイピングを実装したい方は、取得して損のない言語です。
Ruby
RubyもPythonと同様、学習が簡単でコードが読みやすく、拡張性が高いという特徴があります。
そして必要な機能が豊富に揃っているので、スクレイピングとの相性がいい言語として挙げられます。
Rubyはその柔軟性の高さから、プロジェクトの要件に合わせてカスタム処理を実装することが可能です。
さらに開発者コミュニティも活発に動いており、豊富な情報やコードの共有が行われています。
GAS
GASはGoogle Apps Scriptの略で、Google Workspaceのアプリケーションを拡張するためのプログラミング言語です。
スクレイピングの場合、Google SheetsやGoogle Docsなどを操作し、データの収集や処理を行うことが可能。
Googleの豊富なAPIとの統合も強力で、たとえばGoogle MapsやGmailなどのデータをスクレイピングする際にも便利です。
クラウド動作で手軽に利用できるため、スクレイピングにおいて心強い言語といえます。
スクレイピングを行う際の流れ
スクレイピングを行うときは、一般的に次のような流れで行われます。
データの取得元となるWebサイトを選ぶ
最初のステップは、データの取得元となるサイトを選ぶこと。
適切なデータを取得するためには、信頼性の高い情報を提供しているサイトを選ぶことが重要です。
目的に合ったデータを提供しているサイトや、データの公開が明示されているAPIが公開されたサイトが賢明な選択肢となります。
またスクレイピングを行う際には、ウェブサイトの利用規約やrobots.txtファイルなど、ウェブサイトのポリシーを確認することも重要です。
取得元のWebサイトの構造を理解する
次にやるべきことは、取得元のWebサイトの構造を理解することです。
すべてのウェブサイトはHTMLやCSSなどの言語で構築されており、それらの構造をひととおり理解しなければ効果的なスクレイピングはできません。
構造を理解するためには、開発者ツールやブラウザの検証ツールを活用することが有効です。
また、HTMLのタグやCSSセレクタなどを使って、スクレイピングの対象となるデータを特定するのもいいでしょう。
コンテンツを解析しデータを抽出
次にコンテンツを解析のうえ、サイトから得たHTMLデータを解析し、必要な情報やデータを抽出します。
このフェーズでは、解析ライブラリやツールを使用することが一般的です。
たとえばPythonでは
- Beautiful Soup
- Scrapy
などがよく使用されます。
解析の際にはHTMLの要素やクラス、IDなどを指定のうえ、データを特定するセレクタを使用します。
データの具体的な抽出方法はサイト構造によって異なるので、柔軟に対応できるスクレイピングツールやプログラミング言語の知識は不可欠です。
抽出データを適切な形式に変換
クレイピングによって得られたデータは、通常はHTMLやテキストの形式で抽出されます。
この形式で使うなら問題ありませんが、用途によってはそのままでは利用しづらいことも否めません。
そのため、必要に応じて適切な形式に変換する作業が必要になります。
たとえばCSVやJSONなどの標準的なフォーマットに変換することで、他のシステムやアプリケーションでの利用が容易になるでしょう。
テーブルやスプレッドシートなどといった、表形式に整理するケースもあります。
スクレイピングの実行コードを書いていく
解析やデータ抽出などが済んだら、実行コードを書くステップとなります。
スクレイピングの実行コードは、サイトの構造や目的に合わせて都度内容を変えていかなければなりません。
インターネット上にはスクレイピングの簡易的なサンプルコードや、技術者が作成した応用的なものまで、さまざまなものが存在します。
適宜そういったものも利用しつつ、コードの質を向上させてください。
スクレイピングを実行するとき注意したいこと
スクレイピングを行うのであれば、必ず次の点に注意を払うことを忘れないようにしてください。
法律を理解し、しっかり守って活用する
スクレイピングは、サイトのデータやコンテンツを収集する行為なので、そのプロセスや目的によっては法的な制約が存在する場合があります。
たとえばサイトの利用規約やrobots.txtファイルによって、アクセスやデータの使用が制限されている場合があります。
また個人情報の保護や著作権の尊重など、プライバシーや知的財産権に関わる法律も存在するので、留意しなければなりません。
何かあったとき「知らなかった」では済まされないので、公正かつ倫理的なスクレイピングにおけるルールは知っておきましょう。
スクレイピング禁止のサイトも存在する
法的な制約うんぬんの前に、そもそもスクレイピング自体を禁止しているサイトも存在します。
スクレイピングは、情報元のサーバーに負担をかける行為でもあるためです。
利用規約やrobots.txtファイルによって明示されていることもあれば、アクセスやデータの収集を制限するための技術的な措置が取られていることもあります。
それでもスクレイピングを行いたいなら、合法的な手段や提供されているAPIを探すか、サイトのオーナーから許可を得ることが得策です。
情報源のサイト構造が変わったら使えなくなる
注意したいことの一つに、情報源のサイト構造が変わった場合にスクレイピングが使えなくなる点が挙げられます。
信頼性のあるサイトは頻繁にアップデートや改修が行われるため、HTML構造や要素の配置が変更されることはよくあります。
スクレイピングはサイトのHTMLコードを解析するので、もしサイト側の都合でコードが改変されたら、それに応じてスクレイピングコードも変えなければなりません。
定期的に対象となるサイトの変更を監視するか、もしくは変更の必要がないAPIを活用するのがいいでしょう。
フィッシング詐欺に遭う可能性も否めない
スクレイピング利用者は、フィッシング詐欺に遭う可能性もゼロではありません。
フィッシング詐欺は、詐欺師が偽のウェブサイトを作成し、ユーザーの個人情報やアカウント情報を騙し取る手法のこと。
たとえばスクレイピング対象のサイトを選定するタイミングで、あたかも正規のサイトのような内容を反映させることで、個人情報を盗む事例もあります。
スクレイピングを行う際には、信頼できるソースからのみデータを収集すること。
そして、常に警戒心をもちながら
- ドメインやSSL証明書の正当性を確認する
- URLのスペルを念入りに確認する
といったことを徹底してしてください。
情報源のサイトのサーバーへの負荷も考慮する
情報源のサイトのサーバーへの負荷も、注意すべきポイントのひとつです。
スクレイピングは、サイトからデータを取得するために何度もアクセスを行ったり、大量のリクエストを同時に送信するので、サーバーに負荷をかけます。
これは紛れもなくサイトの接続や応答の時間が長くなってしまう一因であり、この背景からスクレイピングを禁止するサイトも存在します。
このような事態を避けるため、適切な間隔や丁寧なリクエスト処理を行うことが重要です。
スクレイピングを行う際は、常に「運営元に悪影響を与えない」という気持ちで、思いやりをもって使うことがマナーです。
まとめ:スクレイピングはリスクを知って正しく便利に使おう!
スクレイピングはマーケティング活動の効率化やデータ分析、価格調査など、さまざまな用途に使用できる強力なツール。
しかし著作権侵害やプライバシー侵害などのリスクもあるので、利用には注意が必要です。
情報源のサイト構造の変化やスクレイピング禁止のサイト、フィッシング詐欺のリスク、法律遵守など、あらゆるリスクを常に考慮しましょう。
慎重さと倫理的なアプローチをもちながら、適切な手法で効果的に使いましょう。